川獺伏草  ~おがどらの雑記ブログ~

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『ホリミヤ』page.7 感想

 『ホリミヤ』というアニメがやってますね。page.7の感想を忘れないうちに書き残して置こうと思います。もちろんネタバレを含みますので、視聴する気のある方はpage.7まで観てからこの記事を閲覧することをおすすめします。

 

 堀さんと宮村くん、そしてその友人たちの取り巻く環境を、一定程度の現実味を帯びた桃源郷であると考えます。自分を深く理解している(それでいて一定の距離をもっている)友人及び家族、そして素直な感情をぶつけることのできる恋人。これだけなら「理想だね、フィクションだね」という一言で済ませる事ができます。しかし、page.7に宮村くんと堀さんが性行為を行ったことを示唆したシーンをみて、これが単なるユートピアではなく、堀さんから見た桃源郷であるということを強く実感することとなりました。また、その示唆によってホリミヤ世界がユートピアではなく桃源郷であることを示され、今までホリミヤ世界をユートピアだと考えていた私は衝撃を受けました。ここまで言っても何を言っているかさっぱりだと思うので、以下ゆっくり語っていきます。

 まず桃源郷ユートピアの違いですが、桃源郷は「心の中に存在し、近づこうとすればするほど遠ざかってしまう概念」であり、ユートピアは「人間が最適な行動を取り続けた際に構築することのできる経済学的効用が最大化された社会」と私の中で定義しています。簡単に言えば桃源郷は到達不可能であるのに対し、ユートピアは到達可能であるという違いがあります。そして、私の中では『ホリミヤ』で描かれている世界は到達可能である理想的な状態であると考えていたのにも関わらず、page.7を観た結果それが到達不可能であるということを決定的に思い知らされました。

 『ホリミヤ』が他のアニメ作品と異なるのは、その現実味にあるのではないかと思います。他のラブコメのように、ヒロインがヤクザの娘でも無ければ社長令嬢でもない。そして主人公がめちゃくちゃ積極的だったり行動力があって女性を虜にしてしまうような魅力を持ち合わせているわけでもない(美貌は多少あるけれど)。そうして構築されたユートピアには、幸せのある「べき」姿が事細かに描写されていると感じました。例えば家族と会話したり、友人・恋人関係に両親や家族が関わってきたり、恋人との関係を惚気けられる友人が居たり… 宮村くんと堀さんの関係をしっかりと描きつつも、その周辺の人間関係が周辺化されていない点が素晴らしいと感じています。あくまでも好きな人や恋人は自分の中で考える比重が大きいだけであって、他の人間関係が全く描かれていなかったり、描かれていても作品以外で絡んでいる様子が想像できなかったりしてしまうアニメが多い中、『ホリミヤ』はそれを疎かにせずしっかりと描写出来ている作品の一つであると感じます。まぁでもよくわからない登場人物もいるんですけどね。1話で登場したこの人とか、堀さんたちのグループに居たっぽいけど最初のシーン以外出てこなくて今は誰とつるんでいるのか謎がち。

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この子

 

 そんなホリミヤ世界がユートピアではなく桃源郷であると確信したのは、「性行為に至るまでの自然さ」です。あまりにも自然すぎて不自然だと感じました。←???

 誰しも初めての相手との行為は緊張し、萎縮してしまうものです。特に宮村はpage.1で堀さんに話しかけられたときに「いや、ちょっと慣れてなくて、こういうの」と言っているシーンがあることから、人間関係を構築することが慣れていないのだと推測できます。にもかかわらず、宮村くんは堀さんに対して不自然なほど信頼を寄せている、という点が不自然だと感じました。

 例えば、堀さんに対して宮村くんが告白したシーンも、堀さんが返事をしなくてもいいようなシチュエーションで唐突に「好き」というほど宮村くんは臆病な性格であると推測できます。他方でで女性に対しても恥ずかしいセリフをポロッと言ってしまう側面や、堀さんが手を繋いだときに宮村くんが手を繋ぎ直して恋人繋ぎをしたシーンがあることも事実です。場合分けをすると、宮村くんが女性に対して勇気ある行動をするときは「それによって関係が変化しないと確証しているとき」なのではないかと考えられます。一般に女性に対して褒め言葉を投げかけたことによって関係が悪化するということはありませんし、(悪化するとしたらもともと関係が悪いときでしょう。)手を繋ぐシーンでは相手から行動に移していることからそれによって関係が悪化するとは考えにくいです。

 この説明で説明しきれない行動が、page.6で堀さんがねんど味のアメを口に含んだあとのキスシーンと、page.7で性行為に及んだシーンというわけです。page.6のねんど味のアメのシーンは、少なくとも描写されている上でファーストキスにあたるはずですが、宮村くんが堀さんのアメを奪ってしまいます。しかしながら、この芸当は宮村くんには難しいのではないかと思います。しかしながら、行為に至る過程は説明可能です。堀さんが宮村くんと付き合っていることを校内で馬鹿にされても否定しないことから宮村くんが堀さんの「好き」という気持ちを強く実感することは可能であったことから、「このくらいで関係が悪化しないだろう」と宮村くんが考えることは自然です。さらに堀さんがねんど味のアメを口に含んだときに顔を思わず歪ませてしまったことを宮村くんはしっかりと目撃しています。以上のことから、行動「前」に関しては説明可能です。しかしながらpage.5において恋人繋ぎをして別れた直後に顔を赤らめてしゃがみこんでしまうような人が、キスしたあとの感想が「ほんとだ、ねんど味。」で終わってしまうのが明らかに不自然なのではないかと思ってしまいます。さらにいちゃもんをつけるならば、(仮にこれが宮村くんのファーストキスだったとして)堀さんの口の中からアメを奪えるほどのテクニックがあるとは考えづらいです。

 page.7では、宮村くんの法事で2人が5日ほど会えない描写があります。その間堀さんはずっと宮村くんのことを考え、あらゆる日常生活が手に付かない様子が描写されています。一方で宮村くんには携帯電話の充電が切れた描写だけがあり、次の描写は帰ってきてから携帯を確認するシーンです。宮村くんが北海道に居た間、堀さんのことをどれだけ考えていたかは分かりませんが、少なくともずっと考えていたならば堀さんからのメールを真っ先に確認するとか、堀さんに電話を掛けるといった行動が自然なのではないかと感じます。しかしながら宮村くんは受信BOXを見ながら「進藤、進藤、石川くん、テストが延期になりましたマジか…」と呟く様子が描写されています。また、携帯電話の画面には「石川 テスト延期」とだけ表示されていることから、「テストが延期になりました」という文章はわざわざメールの本文を確認していることがわかります。

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 つまりこの時点で「宮村くんの頭の中は堀さんに支配されていない」一方で「堀さんの頭の中は宮村くんに支配されている」という不均衡な関係が読み取れます。

 そんな中で行われた性行為は、堀さんからそうした雰囲気に持ち込んで行われたものでありました。宮村くんが堀さんの心臓の音を聞いたのは、そうする「べき」であると宮村くんが感じたからではないかと、どうしても思ってしまいます。宮村くんの中の感情として「望まれたから」する、「関係が壊れてほしくないから」する。堀さんに何もしないと失望されるかもしれない…といった受動的な理由が、その性行為への動機として少なからず含まれていると思います。そうした宮村くんの行動を見て、私は彼に自我が無いのではないかと思ってしまうわけであります。そうしたことから、私はホリミヤ世界が堀さんの思い通りになる世界、桃源郷であると結論付けたわけであります。

 

 「ホリミヤ」は当事者二人だけではなく、その周囲に存在する友人などを含めた個人個人の想いなどを丁寧に描写した、素晴らしい作品であることは変わりないと思います。私は宮村くんの行動原理に着目しながら、残りの話を観ていきたいと思っています。